弁No.3 初級職公務員も一人で行政処分・契約や行政争訟の文書作成
弁No.3 法理論(法学説)と実務の関係について、ショックを受けた第2のきっかけは、ドイツの公務員養成制度です。2年間いた当初の留学のときに、ほぼ毎日のようにミュンヘン大学の研究室から300メートル程度のところにある学生・職員用の食堂(メンザ)に通いました。そのちょうど中間のところに、実は、1990年になって初めてその存在に気づくことになるバイエルン州行政学校があります(その後、事務局は移転しています)。これは、本来は16歳から18歳の間に2年間、初級職公務員になるための学校です。すさまじい量の法学を中心とする教科書類、答案練習もの、その他の資料類がありました。改めて1996年に、同学校で販売している一切の教科書類を購入したら段ボール箱2つ分くらいあって、16万円の請求書が来ました。初級職の公務員の人たちに、初歩レベルとはいえ、実務でそのまま役立つ徹底した法律の理論・実務教育をしているのです。日本の場合、いくら大学の法学部で、例えば行政法総論・各論、行政救済法を習ったとしても、実際の現場でその知識を使うことはほとんどありません。理由は簡単で、現実の「行政処分」の書式、仕方を教員が教えることはありません。現場を知らないからです。「処分庁」といっても、日本の実務の現場では「稟議書」に10数個もの起案者から上司までの印鑑が押してあり、役所内部の決裁規定・専決規定による本来の専決権者は、一連のハンコのうちの真ん中辺りにある課長だったりします。つまり、誰が決定権を持っているかを、ほとんどの職員が意識もせずに日常の仕事をしている。ドイツでは、起案から不服審査、行政訴訟まで、一人一人の職員が、しかも初級職の公務員でも徹底して卒業までに、審査請求書、裁決書、判決文を書くところまで訓練されて、やっと仮採用の公務員になっていくのです。日本の公務員法でいう条件付き任用となるのです。2年間の行政(公務員)学校を卒業できない学生も相当数いますし、6ヶ月の仮採用(試用)期間後に解職される公務員も少なくありません。公務員のうち中堅幹部になる人たちが高卒後に通う官吏養成大学校(一例として、バイエルン官吏専門大学校)でも、実務に使える内容を盛り込んだ法律学のテキストが使われています。卒業後は、翌日から、起案、決裁、裁決文書起案、訴状起案などが行えるのです。初級職であれ、上級職(上記の中堅幹部候補生)でもたいていは、一人で不服審査庁や裁判所に出廷します(以上の一部は、拙著『豊かさを生む地方自治』(日本評論社)に書いています)。
ここで述べたことは、行政実務と法理論の関係です。大学教員は、仮に行政法が専攻であれば、行政現場に相当通じている必要がありますし、それが不服審査の段階、行政訴訟の段階になったときの具体的なあり方について知っておくべきと思います。ただ、ドイツでも、総合大学の正教授はあまりドイツの行政現場を知りません。彼らが公務員の研修にいくことはほとんどありません。日本の大学教員とは大違いで、大学の正教授の「格」の高さについては、また後ほど。
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