弁No.52 あぁ! 2000分の1の針穴
弁No.51 最初に扱った国選弁護事件の判決言い渡しが、今日、ありました。起訴から13ヶ月以上経ちました。
「有罪」
生の事件ですので、事件の詳細や裁判官名までは書きませんが、検察官も言っていない、検察側提出でも証拠にも一切でておらず、公判中にもまったく聞いたことのない「缶ビールを2本買った」という検察側主張の整理から始まって、有罪に向けて推論に推論を重ねた、論理を追うことのできない判決文朗読。ときどき、読むのにつまっておられます。被告人も私もあっけにとられ、23分程度の判決文朗読の途中から、笑い出したくなってしまいました。「推定有罪」を事実上、当事者として体験しました。
まったく納得はいきません。この国の無罪率(統計や論者により違いはありますが、0.06%くらいと言われます)からすると、2000人弱に1人の無罪判決となり、確かに宝くじ当選よりも難しいです。
検察側証人は、警察・検察作成の調書(甲号証、乙号証)、その中でも、現場の地図や証拠とされる写真も見てくることなく証言に立ち、自ら作ったハズの調書と矛盾することだらけの証言をし、それをほぼ完璧に論破しても歯が立たないですね。警察の調書と、警官の証言は、どちらか(ひょっとすれば、どちらも)がウソなのですから、別の犯罪が立件できるはずですが。
判決内容は、もっと短くてよかったはずです。判決理由は、「長く現場勤務をしている警察官が酒気帯び運転を疑ったら、呼気検査を受けるのは当然で、疑うに至るのに事情はいらない。直感だぁ!」という1~2行で良さそうです。この短い説明の方が、スジが通っています。あれこれ付け加えるから、判旨に矛盾が出てきます。
被告人・関係者すべての固有名詞を、甲野太郎型に置き換えた弁論要旨(A4サイズで24枚)がありますので、いずれ、判決文謄本が届くと、OCRでスキャニングして、配布用にしたいと思います。
被告人は当然、控訴するでしょうが、私の手を離れます。
ひょっとして、と期待した無罪判決というクリスマス・プレゼントですが、サンタさんはいませんでした。傍聴人は、ロー・スクール生2名や新聞記者、学部学生ら。さすがに、アルミ製のビール缶は、仮に凹んでも(自然に?)復元する可能性が否定できない、といったくだりには、失笑にも似た雰囲気が傍聴席から。
13回程度、拘置所に通い、2回ほど現場に高速道路を飛ばして行き、法医学鑑定の研究者にまで出廷して頂いたのですが、こんなものでしょうね。
韓国・ソウルの警察署事情、そして、より興味深いインターネットで被疑者と弁護人が接見している韓国の様子(いずれも落合弁護士のブログから)と比べると、また、日本のシーラカンス現象、ガラパゴス現象を思い浮かべてしまいます。
福岡では今年に入ってかなりの無罪判決があったので、期待しかけていた私が悪かったです。しかし、今回の司法改革で手つかずに終わった簡易裁判所制度、副検事、検察官事務取扱検察事務官などの問題点も、知識として知っていた以上に、さらに肌感覚で知る機会になって、その点では良かったと思います。この間、新人研修で扱った事件のほとんどが望みうる最高・最大の結果続きだっただけに、最も力を入れたこの事件の結果は、後味の悪いお歳暮ですが、司法改革課題は尽きていないことを充分に実感することができました。
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