法教育No.8 「法律用語」の困った問題(1)
法教育No.8 行政法の講義で、受講生の方に、同じ「言葉」でありながら、意味が違った使われる例として、「公権力の行使」、「執行機関」、「処分」、「公の営造物」、「善意・悪意」などを伝えます。また、法律の規定にある「取消」という語にも、学問的にいう「取消し」のほかに「撤回」のケースがある、などということにも言及します。さらに、「訓令・通達・示達・令達」などの用語に至っては、行政機関・自治体の例規集などをみても非常にまちまちであることも述べます。
しかし、「行政庁」とは何か、について、著名な教科書でも探した範囲内ではほとんど(察するに、まったく)ないようです。耐震偽造建築物事件を契機に、指定確認検査機関が行う建築確認を素材に、自治体の建築主事が担当するのではなく、民間指定機関が建築確認を行う場合との比較、大臣や都道府県知事の関与の関係も絡めて、行政行為(建築確認)を行う行政庁はどの機関かということを含む質問を作りました。建築基準法の条文を相当数印刷して、試験時に参照条文として配付しています。
建築基準法の6条の2によると、国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者(指定確認検査機関)の確認を受け、確認済証の交付を受けたときは、当該確認は6条1項の建築主事の建築確認、確認済証とみなす、という規定があります。つまり、指定確認検査機関(例、日本ERIとか、イーホームズなど) は、行政行為を行う(講学上または学問上の)行政庁であることは明らかです。指定確認検査機関は、自ら申請して、大臣と知事から指定を受けるので、その「指定」自体は、行政行為(行政処分)です。受講者は、この辺りの腑分けができなくなったようで、ほとんどの受験者の答案は、この点が理解できませんでした。条文を読む力を養う時間が講義中にはなかったからですね。反省しています。
さらに、世間では、建築確認を民間企業が行うことも含めて、「民営化」、「民間委託」、「規制緩和」などと言っていますので、受験学生の答案では、指定確認検査機関は、自治体からの委託契約・委任契約で建築確認を行っている、といった解答も多数ありました。受験者は、建築確認を自治体の行政機関(建築主事=行政庁)が行っている場合を念頭においていますから、建築確認は昔ながらの行政機関が行っている、という頭になっているのですね。新聞もあまり丁寧に読んでいないことの証左でしょうか。
現在の(建築基準法の)条文を前提にして法的仕組みを読み取るのは、非常に難しいように思います。その躓きの原因として、次回に述べる「特定行政庁」という言葉がありました。これは、大きな問題点。
そして、このことについては、次回に。
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コメント
今年の行政法は難しそうな問題が出たようですね…。
法律自体を読み慣れるとそうでもないですが、指定確認検査機関などは章・節単位の見出しに「指定○○機関」というのがあります。それを見つけてぬか喜びしていると、実は指定に関する手続きや監督等の規定が置いてあるだけで、もっと重要な行政庁とか行政行為に絡む規定はかなり前の方に置いてあったりするという、法律の構造自体にも問題があるのではないかなと思います(試験に法律のどこまで提示されたのかは分かりませんが…)。
また、委託契約等と勘違いするのは、指定機関に収める手数料等についての規定を知らないのか、手数料規定自体には気づいても条文上は最初に国や自治体に治める手数料を規定して、その後に次項あるいは読替え規定で対応するという書き振りのまずさもあるのかなと思いました。
しかし、よくよく読めば気づくはずなのですが…。
投稿: hideaki | 2006.02.19 17:28
難度の高い問題を出題されたんですね。
九大の学生は、大変というか、恵まれているというか……
受講者のレベルが高いので、先生も高いレベルの解答を要求したんですね。
法学部の学生が「条文を読む力」を養わない、というのは、単に、そのための時間を確保できない、ということだけに因るものでしょうか。 解釈方法のあれこれ(文理解釈・拡張解釈・縮小解釈・限定解釈などなど)について、おもしろく伝えることができればいいのでしょうが。 我妻榮『民法案内1』の【なぜ、法律学では定義を重視するのか】とか【船の定義の話】なんかは、とってもおもしろいと思うのですが、マニアックなんでしょうかね。
投稿: 竹田恒規 | 2006.02.19 19:50