法教育No.9 「法律用語」の困った問題(2)
法教育No.9 さて、続きです。大臣や知事が「特定行政庁」であるという条文(建基2条32号)も試験問題の参考条文に載せたものですから、さぁ、大変。私の設問の仕方が悪かったせいもありますが、ほとんどの学生は、混乱の極みに至りました。
どの行政法の教科書にも、法律用語の「特定行政庁」と、「行政行為を行う行政庁」の違いについては書いてありません。そして、「(講学上・学問上の)行政行為を行う行政庁」には、日本医師会や日本弁護士連合会もありますが、これらが行政処分を行うという意味で行政機関だということを明確に述べている総論レベルのテキストはあまりないようです。
総務省の法令データベースによれば「行政庁」という言葉を含む法律は全部で573あります。とても全部を見たわけではありませんが、その多くは行政不服審査法に関連した特例を定めている条文です。「特定行政庁」のように、その用語自体を個別の法律で定義規定を準備しているものがさほど多くはないために、おそらく行政法総論では、「行政庁」の説明をあまりしていないのではないかと推察されます。
改めて、主要な行政法テキストを見てみましたが、今回の耐震擬装問題の行政法的な説明のヒントを述べているような教科書は、まだないような気がしました。同じように、「公定力」(排除訴訟)の説明にも、最近、実務に携わって、ますます違和感を持つようになりました。早い話、建築確認が降りて、さらに、建築紛争審査会で審査されていても、あるいは、そこで棄却裁決が出ても、仮処分の請求はいっこうに構わないというのが、裁判実務だからです。建築確認を含む許認可を例にすれば、授益(受益)処分を受けた市民・事業者は、行政争訟と民事訴訟の危険にさらされ、逆に、処分の第三者は(金銭的・時間的余裕があるならば)行政争訟と民事訴訟を提起する可能性をもつのです。テキストと実態、あるいは、法律用語の乖離が、どんどん進んでいるように思えます。私の誤解や勘違いだったら、ご指摘いただきたいのですが。
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コメント
「公定力は行政処分の法効果に対してだけしか及ばない」というのが伝統理論に忠実な説明かと存じますし、その上で「建築確認は相隣関係的法効果はもちろん、建築物自体の適法性を確認する効果を有しない」という立場に立てば、やはり現在の実務のとおりになるのだと思います。それが「テキスト」の論理的な帰結だとも理解しています。ですから先生のご指摘はむしろ、「テキストと市民の直感的な理解が相反するおそれがある」ということかと存じます。
このあたりは、行政訴訟と民事訴訟の役割分担にもかかわりますので、私自身は、上記の問題点を意識した上で当面伝統的な理解を維持する立場に立っているのですが、民事訴訟、あるいは民事法一般に公共訴訟的機能を持たせることに懐疑的な先生方からは、否定的な意見も出てくるのでしょうね。
投稿: かどまつ | 2006.02.21 18:39